2.思い出した発明品(何が出ているのかな?)
ある日、おもむろにかつて作った『磁石』を思い出した主人は、庭先に作ったログハウスでチョットうるさい子供たちから逃れようと避難して試してみた。
「あー気持ちいい・・・。」しばらく一人でくつろいでいた。いつの間にか気を失っていた。気を失ってしまうほど、子供の相手に疲れていたのか、気持ちがよかったのか・・・。
目がさめてから、気を取り直してもう一度試してみる。今度はいわゆる『ツボ』といわれるところへ当ててみる。胃のツボに当たる辺りに当ててみる。しばらくすると、胃がぐるぐる音を立てて動き出す。「気持ちがいい・・・」
単なる偶然なのかも知れないと思い、今度は別のツボを試してみる。肩のツボ、目のツボ・・・。どこもほんのしばらく当ててみるだけでスーっとコリが引いていく感じがある。
「なんなんだ・・・・。これは・・・。」
「ちょっと、ちょっと、これチョット試してみ・・・。」
「どしたの???」
「いいから。いいから。」
言われるがまま試しに頭に当ててみる。何かはっきりとは分からないけど、何か重たいものが出ているような感じ。何だろう・・・。試しに反対側も当ててみる。ちょっと違う感じがする。しばらくしてくると返ってしんどくなってくるか??これってひょっとして裏表があるの??
「これ、ひょっとしたら裏表があるよ・・・。反対にしてみるとしんどいよ。こっちの側のほうが私は気持ちがいいような気がする。」
「どれどれ・・・。ああ、ほんとだ。なんやろ。これ。」
「わかんないの?」
「分からん。」
「何やろねえ。」
ひょっとして、これってピップエレキバン???試しにピップエレキバンでも試してみる。全く感じが違う。一体何なのこれ?
丁度、村の夏祭りの準備の寄り合いがあった。主人はお酒もタバコも全くだめなので、手持ち無沙汰に『磁石』を持って出席する。
その席に、その頃脚立から落ちて腕を捻挫した人がいて、「それ何?」と興味を持ってくれた事から、試してもらう事になった。
初めは半信半疑で当てているその人の顔色がだんだん変わっていく。
「これなんですか? すごい楽になってきたわ・・・。これどうやって作ったの?僕も作ってほしい・・・。なになに、棒磁石?よし分かった。買ってくるから作ってもらえます?」
このやり取りを聞いて、特許に詳しい人がその場にいて、その人にも見てもらう。
「これはひょっとしてすごい発明と違うか・・・。特許申請してみたら・・・。」
そのほんの些細な提案に乗せられて、本当に特許を出してみようと思い始める主人だった。
丁度その頃、私が主に使っていた車を主人がしんどいと言い始める。夏休みになって家族で移動するときは、いつも主人が運転するのだが、しんどいのは私が事故を起こしてしまい、その車を直してもらったせいかと思っていた。でも主人はナヴィゲーションシステムの電磁波がきついのではないかと言い始める。そうかなあ。私には分からない。
主人は盛んに「買い換えたほうがいいんじゃないか。」とやたらと勧める。そんな事いったっていまどき『コンピュータ制御ではない』車はないぞ!!と思いながらも、たまたまこれもまた近所の人に話すことがあって、その人が自分の家に出入りしているディーラーを紹介してくれた。
とんとん拍子に話が進み、そのディーラーのお兄さんにも『磁石』の話をしてみる。思いっきり斜に構えて聞いているのがありありと分かる。
「そんな話ありますかあ??へええーーー。」
お客の言う話だ。まあ聞くだけ聞いていてあげよう、そんな感じだった。
「まあ、ちょっと試してみてよ。」
現物を渡してみると、「ぷっ・・・」と笑って、
「せ、先生。あの冗談じゃないですよねえ。あの、今時、小学生の夏休みの宿題でもこんなのありませんよぉ・・・・。本当にこんなのが効くんですか?ははは・・・・。」
その通りである。彼の見た目は正しい。私も信じられなかったのだから・・・。
どうひいき目に見ても、こんなもので本当に楽になれるのなら、いわゆる『健康グッズ』は全部はったりではないのか、と思えるほどお粗末な代物だったのだ。
しゃーないなあ・・・。と付き合いで試させられた彼の顔色が見る見る真剣になっていく。
「うわっ!何ですかこれ?なんか電気みたいにびりびりする。ほんで、肩がすごく凝ってたのに・・・あれ?スッキリしましたよ?ええ?何これ?」
「胃の辺りですね・・・はい。ええ!!!何なんですか。これは。自分ではとめようと思ってるのにお腹が勝手に鳴り出すんだもん。止めようにも止めようがないよねえ。」
終いには彼もすごくこの『磁石』が気に入って、結局主人は彼仕様で別に作ってあげる事になる。その彼が喜んでくれたのはいうまでもない。
今では彼は『磁石』が自分の枕になっているそうである。不思議と『磁石』を枕にして寝始めてから、朝の目覚めがすこぶるいいらしい。主人は思いもかけない人から感謝されてしまう羽目になったのだ。面白いものである。
つづき